「家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案」に対するパブリックコメントを提出しました。

2020/6/11

2020年6月11日、日本スローフード協会は農林水産省による「家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案」に対するパブリックコメントを以下の通り提出しました。

https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=550003113&Mode=0

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家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案に対する意見書

 

2020年6月11日

一般社団法人 日本スローフード協会

代表理事 渡邉めぐみ

東京都中央区銀座3丁目9−11

紙パルプ会館10F銀座環境イニシアティブ内

連絡先 m.watanabe@slowfood.it 080-4003-2972

 

一般社団法人日本スローフード協会は、日本全国の生産者、加工業者、小売業、料理人、消費者、教育者、活動家等、食に関わる地域活動団体に紐づく約300名で構成される団体であり、イタリアにあるスローフード協会を本部に持つ、世界最大規模の食と環境保護団体の日本支部です。私どもは、この度、家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案について、以下の意見を提出します。

  1. 要旨

飼養衛生管理基準(牛、水牛、鹿、めん羊、山羊)、及び飼養衛生管理基準(豚、いのしし)の改正案について、下記の項目を削除することを提案いたします。

【削除項目】

(1)豚、いのしし、牛、水牛、鹿、めん羊、山羊 1-9

放牧制限の準備

放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を飼養できる畜舎の確保又は出荷若しくは移動のための準備措置を講ずること。

(2)豚、いのしし 3-28、牛、水牛、鹿、めん羊、山羊 3-26

大臣指定地 域においては、放牧場、パドック等における舎外飼養を中止すること。

  1. 理由

理由は、①合理的根拠の不在②畜産業従事者からの疑問の声の広がり③放牧畜産の意義④放牧畜産に対する需要の高まりの4つが挙げられます。以下に詳述します。

①合理的根拠の不在

家畜を畜舎に閉じ込めても完全な隔離は実現できません。以前、一般の農家より遥かに高い伝染病対策が取られているはずの、県の試験場などで豚熱の感染が相次ぎました。(豚熱の発生: 岐阜県畜産研究所 2018年 12月5日、愛知県農業総合試験場 2019年 8月9日、長野県畜産試験場 2019年 9月14日) これは、家畜を畜舎に閉じ込め、万全の対策をとっても、家畜伝染病からの完全な隔離は存在しないことを示しています。放牧畜産家や獣医師の経験知からは、放牧で家畜がのびのび過ごしていると健康で免疫力が高く、病気にかかりくいとの報告が多数あります。放牧の空間的なゆとりや家畜自身の免疫力は家畜伝染病感染拡大の抑止力になるのではないでしょうか。

②畜産業従事者からの疑問の声の広がり

今回提案された放牧の制限を記した二つの事項は、当該事業者を廃業に追い込むほどの致命的な影響があります。それにもかかわらず、事前のヒアリングもなく唐突に発表されたことについて、生産者や、そのサポーターである流通業者や消費者などから、当惑や怒りの声が広がっています。豚飼育業者がChange.org上で始めた署名活動「農林水産省は感染症予防対策としての家畜放牧禁止を見直して下さい!」は、2週間の間に5000以上の署名を集め、関心の高さを示しています。署名には、放牧豚・牛の生産者や、そのサポーターでもある消費者、シェフ、有機農業関係者、獣医師、県会議員、動物愛護関係者など様々な人がいて、改正案に疑問の声を上げています。

③放牧畜産の意義

放牧畜産は、土地を活用した持続可能な生産や、飼料自給率の向上、土地の保持、耕作放棄地の再生、アニマルウェルフェアへの配慮、安心・安全な食の生産などに貢献してきました。日本有機農業学会から6月5日に提出された『「飼養衛生管理基準」改正に対する意見書』には、放牧畜産の有用性について詳細に述べられており、我々もそれを支持します。

④放牧畜産の需要の高まり

放牧は、畜産品(牛・豚・鶏)の有機JAS取得の必須条件となっているように、家畜にも環境にも人にも安心・安全な飼育方法と考えられています。健康や環境やエシカル消費などに関心が高い消費者層に支持されている他、レストランやホテルや結婚式場などでの需要も高まっています。自然派ワインとともに、有機食材として提供されるフレンチやイタリアンの例があります。結婚式場では「放牧と牧草で育てた国産和牛」など顧客からの指定で注文が入ることがあります。ホテルからは、海外顧客への対応として放牧やアニマルウェルフェアを謳える国産の畜産品の提供を求められています。このことから、放牧畜産は世間からも多く求められています。

以上の理由から、放牧制限の準備や舎外飼養の中止案は撤回が妥当です。家畜伝染病対策は最大限に行った上で、農林水産省も放牧推進しているように、放牧をさらに広めていく策が、持続可能な未来の畜産のあり方として求められているのではないでしょうか。

新型コロナウイルスの影響下で、日々変化する状況に生産者や流通業者が対応に追われる中、さらに生産者に影響を与えることとなる本改正案を成立させることには強く反対します。本改案の内容について畜産関係者の意見を反映させていただけるよう、よろしくお願い致します。

以 上

家畜伝染病予防法施行規則の一部を改正する省令案に対する意見書

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