祖谷のコキビ
登録日 | 2021年10月20日 |
生産地 | 徳島県三好市東祖谷 |
生産者 | 東祖谷雑穀生産組合 |
生産量 | 年間約50kg |
主な調理方法 | 〔キビもち〕コキビだけを蒸してついて、餅にする。
〔甘酒〕コキビ、コメ、麹菌でつくる。 |
この地域で代々種継ぎされてきた「コキビ祖谷系1、コキビ祖谷系2」は、他の地域のものとは形状や大きさが異なる品種です。長くたれさがった筋状の穂に、小粒の黄色い実がつきます。コキビとは、黄色い実の色および、タカキビに比べて背が低いことから呼ばれている名称です。
(栽培環境の特徴)
中央構造線の脆い地質でできた山岳地帯に位置する東祖谷は、過去の大規模な土砂崩れによってできた安息角(30-40°)の土地に集落や田畑を構えました。こうした急傾斜地を常畑化すると雨風等で土が流れ出てしまいます。土壌流亡を防ぐために、刈り取ったカヤ(ススキ)を三角錐状に積み上げ乾燥させて刻み、畑に敷き込みます。同時に、この地域特有の重く鋭い農具を用いて深耕して礫を粘土やシルトにすることで流亡する土を再生産しています。また、独自の農具を使って、流亡した土壌を復元する作業(ツチアゲ)をおこないます。この農法による雑穀生産を続けることで、カヤ場(ススキの草原)という多様な生物の住処や持続的な農業生産が可能な土壌が再生産されているのです。
東祖谷地域在来のコキビは、正月のお餅に使われます。また、旧暦10月亥の日に、病気予防や子孫繁栄を願って各家がおこなうオイノコサンというお祝いでも、このコキビを使った餅をつくって食べます。
コキビ、アワ、タカキビなどの餅の材料で畑につくっているものは「モチシネ」と呼ばれ、モチシネ栽培に関わる畝立て、間引き、施肥などの夏場の農作業はシライと呼ばれます。
このため、祖谷での夏場は「モチシネのシライすんだで?」つまり「雑穀の農作業は終わりましたか?」という言葉が挨拶になるほどでした。
現在は常畑で栽培されていますが、かつては焼畑で栽培されていました。
食べるものが少ない時代に、正月などの特別なときの食べものとされていました。
東祖谷の地域は少子高齢化が進み、住民もだんだんと減少しています。
世界農業遺産にも登録されたこの地域特有の急傾斜地を利用した農業も担い手が減少し、雑穀生産そのものが衰退していました。
コキビの種継ぎを続けていた家庭は数軒で、残された種を絶やさないために地域の有志が東祖谷雑穀生産組合を立ち上げ、種と栽培技術を継いでいます。現在も20名程度の組合員で種を守っていますが、地域の少子高齢化は進む一方で、引き続き種を守る取り組みが必要です。