スローフード、2025年の展望は?
Edie Mukiibi、2025年のビジョンを語る
2025年は、Edie Mukiibi(エディ・ムチビ)氏がスローフード・インターナショナルの会長に就任して3年目を迎える年です。
これまで以上に、一貫した行動と具体的な成果が求められる一年になりそうです。そこで、2025年に向けた方針や戦略について、お話を伺いました。
2025年に実現させたい「good news」は何ですか?
2025年は、農業をアグロエコロジー(生態学的農業)へと転換させる流れを加速させたいと考えています。世界中のアグロエコロジー農家がスローフードの「Slow Food Farms」ネットワークに参加し、より良い食の未来へと進んでいく姿を見たいですね。この取り組みは、スローフードのムーブメントに新たな風を吹かせ、アグロエコロジー農家を支援し、世界中の仲間とつなげる重要な役割を果たします。
スローフードはグローバルな運動として、アグロエコロジー農家や先住民コミュニティをもっと支援し、ネットワークをさらに広げる必要があると思っています。農家、シェフ、活動家、専門家、政策立案者、リーダー、若者、教師、研究者など、あらゆる立場の人々が協力しながら、気候変動に立ち向かい、より良い食のシステムを築いていく年にしたいと考えています。
世界的な運動のリーダーであるということは、複雑さや多様性を受け入れる視点が求められます。それは大きな強みである一方で、同時に課題にもなり得ます。Slow Food はこの挑戦にどのように向き合うべきでしょうか?
スローフードは、世界中に広がる多様な運動です。草の根の活動が中心にあるため、地域ごとに異なる特徴を持ちながらも、強い結束力があります。この多様性こそが、私たちのアイデアや取り組みを豊かにし、ユニークな視点を生み出しているのです。
もちろん、こうした多様性は一筋縄ではいきません。しかし、それこそがスローフードの強みだと考えています。地域ごとの状況を尊重しながら、一緒により良い食の未来を築いていくことが大切です。ネットワークが広がるにつれ、より良い運営方法を見つけること、意思決定のプロセスを草の根レベルのリーダーたちのもとへと近づけることが、ますます重要になっています。
私は、スローフードの「多様性」と「複雑さ」は課題ではなく、むしろ大きな可能性だと考えています。しかし、その複雑さを理解することが簡単ではないのも事実です。日々直面する政治的な課題に対応することは、精神的にも肉体的にも大きな負担となりますが、それでも私は希望と喜びを持ってこの役割を果たしています。
私は、自分の人生を持続可能で健康的な農業・食のシステムに捧げてきました。すべての人が自由に自分の思いを表現し、貢献し、行動できる世界——それこそが私の目指す未来であり、スローフードの中にその理想を見出しています。
2024年、スローフードはアグロエコロジーへの転換を強く推進すると発表しました。その理由を教えてください。
アグロエコロジーこそが、世界中の人々が”Good, Clean, and Fair”な食べ物を手に入れる手段であり、気候危機を食い止めるカギでもあるからです。そのため、スローフード運動の中心に据えるべきだと考えています。
私たちは、「Slow Food Farms」のような具体的なプロジェクトを通じて、世界中のコミュニティがこの転換に参加できるよう働きかけています。今こそ、生物多様性と文化の多様性を守り、食と生態系の健康についての教育を広め、アグロエコロジーを支える政策を推進するために行動しなければなりません。
現在の食システムは岐路に立たされています。気候変動による災害の増加、自然資源(生物多様性・土壌など)の破壊、水や空気の汚染、飢餓と貧困の拡大、公衆衛生の悪化……これらの問題は、工業型農業や大規模食産業による搾取的なシステムが根本的な原因となっています。
農業の未来を企業の利益のためだけに支配されるのではなく、農家の手に取り戻す必要があります。そのために、アグロエコロジーへの転換が不可欠なのです。
アグロエコロジーは環境保護にどのように貢献し、農家や消費者にどんなメリットをもたらしますか?
アグロエコロジーは、気候変動の緩和や適応に大きく貢献します。健全な土壌を維持し、汚染のない生態系を守ることで、持続可能な食の生産が可能になります。また、地域経済を活性化させ、農家やコミュニティの食料と収入の安定にもつながります。結果として、より自立した持続可能な社会を築くことができるのです。
多国籍企業がこの変革を妨げているように見えますが、どのように対抗していけばよいでしょうか?
まず私たちが取り組むべきことは、地域に根ざした伝統的かつ先住民の生物・文化資源を守ることです。大企業は意図的に食のシステムを画一化し、多様性を狭めようとしています。しかし、生物多様性を守り活用することで、彼らによる支配力を弱めることができます。生物多様性を基盤とするアグロエコロジーの考え方が広がれば、特許で管理された品種や合成化学物質、そして脆弱なサプライチェーンへの依存を減らすことができます。
また、子どもや専門家だけではなく、すべての人への食育を強化することも不可欠です。企業主導の食システムが利益を最優先し、人々や地球の健康を犠牲にしていることを理解することで、私たちはより良い選択をし、この不公正に対して行動を起こすことができます。
さらに、世界中のスローフードの活動家たちの取り組みを支援することも重要です。彼らは日々、現在の食システムにおける社会的、政治的、経済的、環境的な不公正と闘っています。特に、先住民、女性、若者、その他の社会的に弱い立場の人々に対する不公正は、企業の影響を受けた法律や政策、戦略に深く組み込まれています。
私たちは、地域のコミュニティや支部などを通じてスローフードの活動に参加し、アグロエコロジーや食の主権を推進する政策を求めることで、多国籍アグリビジネス企業の不公正な支配に対抗することができます。たとえ彼らが巨大な存在であっても、私たちは数百万の力を持っています。
あなたがアフリカで生まれ育ち、農学者であり、農業者でもある背景は、スローフードにとってどのような強みになりますか?また、それによってスローフードはどのように成長したと思いますか?
私は若いアフリカの農家であり、農学者であり、実際に農地を耕しながら働いてきました。この総合的な経験が、私のリーダーシップの基盤となっています。私は食や種、小規模農家、土壌について、書物や他人の話を通して語るのではなく、自らの経験に基づいて語ります。母国をはじめ、世界中で小規模農家が直面している困難を目の当たりにしてきました。
この人生経験こそが、食のシステム全体にわたり、レジリエンスが高い、多角的な食の運動を築くために欠かせないものです。スローフードのような多様なグローバル運動を牽引するには、政治的・技術的・実践的な知識が求められます。そして、この三つの要素を併せ持つことで、スローフードは真の草の根運動へと進化してきました。
スローフードの運動では、出身地や関わり方の大小に関わらず、すべての人が”Good, Clean, and Fair”な食のシステムづくりにおいて積極的な役割を果たします。私たちには、あらゆる人の力が必要です。一人ひとりが変革の担い手なのです。
2024年は史上最も暑い年と発表されました。しかし、各国政府や国際機関からは、気候危機を和らげたり、刻々と進行する気温上昇への適応策を講じたりする意思があまり見えません。もし、エディが3つのグローバルな方針を策定できるとしたら、どのような優先課題に取り組みますか?
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