風土との調和: 北タイで、伝統的な農業と土地とのつきあいかたを探る

2018/2/23

この記事では読者の皆さんを北タイへお連れします。輪作農法という、先祖代々続く土地管理と文化的実践をご紹介します。

土地を休ませる時間は、数年間に及びます。森が再生する期間も、区画には多年性の作物が育ち、世話をされ、収穫も行います。 これは、北タイのチェンライ、ヒンラートナイ村に暮らすカレン民族(またはPgakenyaw)が代々受け継いできた仕組みです。私たちはこのやり方で数世紀に渡って森を守り、村に食べ物を供給してきました。現在は20世帯が3,250ヘクタールの森林と土地の世話をしています。2010年、このエリアはタイの文化省により特別文化区域に指定され、カレンの人々は土地管理者としての権利を保証されました。自らの資源を伝統的で持続可能なやり方で守る権限を取り戻すことができたのです。

 ところが残念なことに、伝統的な知恵に関心がある若者は多くありません。
輪作農法などの存在を知らないタイ人も増えています。そこで、去年11月、ヒンラートナイ村、タイのスローフードユースネットワーク、先住民族テッラマードレネットワーク 、Pgakenyaw持続可能な発展協会(PASD)が協力し、Princess Maha Chakri Sirindhorn文化人類学センター(SAC)の支援を受けて教育ワークショップを行いました。
先住民族の若者たちが伝統的な知恵を守り、輪作農法と森林農法を基盤とする地域食のイノベーションに取り組むことに誇りを持つには、何が必要だろうか?そんな問いに答える形で実施したワークショップです。タイのスローフードユースネットワークと先住民族テッラマードレから、料理人、デザイナー、アーティスト、コーヒー農家、有機農家などが招かれ、それぞれの専門分野を共有する機会となりました。ユースのメンバーがワークショップを進行し、背景も職業も様々な参加者が集いました。それぞれの文化的背景や知識、実践をもとに、新しい取り組みも生まれていくように、 地域の人々、特に若者が意見を交換し、互いから学び合うための場も設けました。

 コミュニティーのリーダーであるChaiprasert Phokhaさんが参加者を歓迎し、会が始まりました。伝統的な暮らしを続けている集落の長たちがそれぞれの歴史、そして地域の自然資源とのつきあいかたを語ります。ヒンラートナイ村では少なくても四世代にわたり、 カレン族の伝統と慣習法によって、地域の森林と森林農業、輪作農法が守られてきました。
場は3つのグループに分かれ、どのグループにもコミュニティーの長老や知恵深い人が入り、年長者からだけでなく、村の若者からも、森林農業について経験と知恵が共有されました。地域の専門家たちはいくつかある森林の分類についても語りました。

 ヒンラートナイ村では、地域にある森林と、森林農業の間には、はっきりとした線引きがありません。どちらにも多様な樹木、植物、昆虫、動物が存在し、多くは食べもの、薬、その他暮らしの多方面に役立ちます。収入を得るために大切な作物の一つが、お茶です。makhom /マクホンという名の在来果物のほか、レモンやザボンなどの果樹も、貴重な収入源です。養蜂もまた、とても大切です。ヒンラートナイの人々は木で作った巣を並べ、蜜蝋で野生の蜂たちを招き入れます。蜂たちはそこを自分たちの拠点として、蜂蜜を作ります。

森林の生産性と多様性は、ただ森が自然に育つのを放置していても育まれません。丁寧に世話をすることで豊かな森林が維持されてきました。大切な樹木や植物をたびたび植えていくことで、周囲の森を森林農業へと成長させてきたのです。こうした維持管理の継続により、森林は、村を維持し、収入の機会をももたらしてきました。

初日の夜は、森からの豊かな食をいただきました。ユースの料理人が、用意した一皿一皿を通してコミュニティーの物語を語りました。食事の後は、1日の学びを振り返り、共有する時間となりました。

 ヒンラートナイ村では、11月が収穫の季節です。2日目には、参加者を3箇所の輪作農業地へと案内し、輪作農業のそれぞれの段階にある作物を実際に見て、触れて、収穫する体験を行いました。収穫の後であっても、耕作地にはまだ作物が残っていて豊かであることを目の当たりにする機会となりました。収穫した作物は、農場でそのまま調理されます。作りながら、食べながら、カレン村の伝統農業と料理について話しました。有機野菜をシンプルに調理する方法を含め、カレンの暮らしの知恵の多くは、近隣の先住民族であるアカの人々から入ってきたものです。カレンの人々とアカの人々の言語は違いますが、暮らしかたはあらゆる面で似ています。

 2日目の夜は、スローフードのMenu for Changeキャンペーンを祝福するため、豪華な食事が並びました。ユースの料理人と地元のシェフに参加者も加わり、プロフェッショナルと共に手を動かしながら学びを楽しみました。料理人たちと参加者はいくつかのグループに分かれ、料理をしますが、材料は「輪作農法の畑からの収穫物だけ」。それぞれに知恵を共有しながら2日間で学んだことを実践に落とし込む、素晴らしい機会となりました。村の人皆が食事をしに訪れ、それぞれのグループが自分たちが調理したメニューを紹介しました。

最終日の朝は、輪作農法の作物を生のままいただき、土地の香りと味を知るワークショップを行いました。3つの森からとれた蜂蜜とコーヒーを試食し、先住民族のメジャンタイ・アカ(Maejantai Akha)の人々が作るコーヒー花のチザン、ヒンラートナイの黒茶チザンとお茶の花もいただきました。皆が味蕾を開き、地域の自然資源の豊かさと価値のある伝統を身体に取り込むような経験でした。試食の後は、最後の食事です。シャーマンや年長者が参加者一人ひとりのために Kij Cu と呼ばれるカレンの儀式を行い、皆の帰路の無事と、幸せと、この経験が良き思い出となるよう願いました。

 グローバル化は、人の暮らしかたに変化を要求します。新しい体験や喜び、広い世界を知ることもできる一方で、どうしても、固有の文化と伝統の行く末は揺らぎます。私たちは、多文化社会を探求し、繋がることができる特権を与えられているからこそ、自分たちがどこに根ざしているかを決して忘れてはなりません。祖先は、他者を傷つけることなく調和して暮らしていくことは可能だと見せてくれました。豊かな風土をこのまま丁寧に世話していたら、暮らしと食べものがもたらされます。きれいな土壌と水が、私たちと、共に暮らす生物を育みます。森林は、そこに暮らす生き物だけでなく、脈々と受け継がれてきた文化をも守っています。祖先を敬い、これだけの貴重な資源を手渡してくださったことに感謝をしましょう。
先住民族が互いにつながりあい、グローバル社会にも接点を持つようになった今、ヒンラートナイがそうしているように、文化の美しさを分かち合い、学びあうことを皆で目指しましょう。多文化を生きることは私たちの世代に与えられた好機です。今こそ、自分たちが根ざす風土を大切にすることで、異文化や異なる暮らしにも敬意を持つことができるはずなのです。

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