種蔵紅かぶ

2020/9/15

認定日 2020年8月31日
生産地 岐阜県飛騨市宮川町種蔵
生産者 古川町 地場産市場  他
生産量 出荷量 500kg(H25年のデータ)
生産時期 収穫 10月〜11月中旬
主な調理方法 主に漬物にして食される。
問合せ先 スローフード飛騨高山

 

食材の特徴

種蔵紅かぶは、飛騨市宮川町種蔵(旧吉城郡宮川村)で栽培され、種蔵紅かぶという名前からも分かるように、古くから種蔵の地域内で自家採取による栽培が続けられてきました。

岐阜県飛騨市宮川町にある種蔵地区は昔、周辺集落と比べると食料が多く取れる集落であった、といわれています。周辺集落で穀物が不作の時には食料を分けてくれるよう頼まれることも多く、食糧を多く貯蔵している集落であることから種(穀物)の倉の地域として種蔵の名がついたと言われています。

種蔵地区には「カブラなぎ」という言葉が伝わっており、それが紅かぶが種蔵の住民にとっていかに大きな存在であるかを物語っています。昔は、宮川村でも焼畑をしており、夏頃に畑を焼いた後、紅かぶを作付けしていました。「カブラなぎ」とはこのように焼畑(飛騨地方の言葉ではなぎ畑)を行った直後にかぶを栽培することを言い、焼畑後の灰を入れることにより、葉が短く・根が大きい質の良い紅かぶが収穫できたといいます。
なぎ畑は、難しい技術は必要としないため、どこの集落でも行えるものだと思われがちですが、地力を消耗するため連作が難しく、輪作が基本となります。そのため農地面積に余裕がないと不可能で、「カブラなぎ」は種蔵集落以外ではめったに行われないものでした。
もうこの地域では行われていないなぎ畑文化ですが、現在の人々がその種を途絶えさせないよう続けている種蔵紅かぶの栽培は、なぎ畑文化の名残とも言えます。このようにかぶの品質に強いこだわりを持った人々が存在するからこそ、長い歳月「種蔵紅かぶ」の質は守られ続ています。

歴史的、食文化的位置づけ

栽培の歴史については、村史やその他の資料に具体的な標記が無いため定かではありませんが、生産者代々の言い伝えによると、江戸時代から続いてきたようです。種蔵集落の紅かぶが長年、円錐状の形と特徴的なコリコリとした食感を引き継いでいるのは、種蔵紅かぶを栽培している周辺には他種のかぶを栽培しないなど、混じりけのない種蔵紅かぶの種の保存に力をいれているから。種蔵紅かぶを地域外に持ち出し栽培したことがありましたが、どれだけ他種のかぶと交配をしないように作付けしても、これらの特徴は保てなかった、というエピソードが伝わっています。
宮川村では昔から紅かぶの栽培を行っていましたが、今で言う飛騨紅かぶが主でした。種蔵集落では種蔵紅かぶがメインではあったものの、周辺の集落の影響で飛騨紅かぶを栽培する農家がでてきたことがありました。その際に、いくつかの畑で飛騨紅かぶと種蔵紅かぶが交配し、形が丸くなる、色が紫色になるといった異変が起きてしまったといわれています。このような経験が語り継がれながら、種蔵紅かぶは守られてきました。
その他に特有の食感や形を維持するために大切だといわれているのは、収穫のタイミング。その収穫のタイミングは代々継がれてきた種蔵独自のものであり、大きくなり過ぎないうちに収穫するのが適度な歯ごたえのあるかぶにするコツだといいます。

種蔵集落のある宮川村(現在の宮川町)は多く雪が降る寒冷地であるため、12月までに、雪解けまでの食料を確保しておく必要がありました。そのような状況のなかで、紅かぶは、種まきから収穫まで9月~11月の短期間に採れるため、紅かぶ収穫の後も、雑穀を作付けすることができたといいます。二期作に向いた紅かぶは、種蔵の効率的な作付けを実現するための重要な作物であったと考えられます。また食材としても、種蔵紅かぶは冬期間の副食の乏しい時期に食卓を彩る重要な食べ物でした。

生産を取り巻く状況

現在、種蔵集落で種蔵紅かぶの栽培を行っているのはわずか3件ほど。種蔵集落に人がたくさん住んでいた頃には20件以上の家庭で栽培がされていたが、集落の過疎化とともに畑で紅かぶの栽培風景が見られなくなってきました。

栽培を続けている農家を見ても、65歳以上の高齢者がほとんどです。これらのことから種蔵紅かぶの衰退の背景には種蔵過疎化、高齢化といった社会的な事情があり、今後も種蔵紅かぶの担い手は減っていくことが予想されます。一方で、種蔵紅かぶ漬けの昔から引き継がれる味は、今も昔も人の心を掴む力を持っている。種蔵紅かぶは、土産やなどで販売されたりもしているが、種蔵地区にある民宿「板倉の宿 種蔵」にて、宿泊客の食事に種蔵紅かぶ漬けを提供している。歯ごたえのある漬物は、特に年配の人から好評だという。また種蔵紅かぶの漬物を長年食べて育った地元民にとっては、独特の歯ごたえのある種蔵紅かぶの漬物こそが紅カブ漬けであり、他の紅カブの漬物は食べられないという人もいる。このように地元の人を中心に長く愛される種蔵紅かぶと、長い歴史の中で培われてきた食文化を途絶えさせないためには、多くの方の御理解と御協力が必要です。

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